ピロリ菌の除去
「ピロリ菌」という名前を、テレビや雑誌などで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ご自身がピロリ菌に感染しているかどうか、ご存知ですか?
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、ヒトの胃の中に棲みつく細菌です。そして、この小さな細菌が、慢性的な胃の不調、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、そして何よりも「胃がん」の最大の原因であることが、今や明らかになっています。
しかし、ピロリ菌は、検査で簡単に見つけることができ、お薬を1週間飲むだけで除去(除菌)することが可能です。ピロリ菌を除菌することは、つらい胃の症状を改善するだけでなく、将来の胃がんリスクを大幅に減らすための、最も効果的な「予防法」なのです。
当院ではピロリ菌の検査から除菌治療、そして除菌後の経過観察まで、責任を持って一貫した診療を行っています。
ピロリ菌とは?
正式名称をヘリコバクター・ピロリといい、胃の強い酸性の環境の中でも生き抜くことができる特殊な細菌です。主に幼少期に、衛生環境が整っていなかった時代の井戸水などを介して感染すると考えられており、一度感染すると、自然にいなくなることはほとんどありません。
胃の中に棲みついたピロリ菌は、粘液を産生して胃の粘膜を傷つけ、持続的な炎症(慢性胃炎)を引き起こします。この炎症が長年続くと、胃の粘膜が薄く痩せてしまう「萎縮性胃炎」という状態に進行し、これが胃がんの発生母地となります。
なぜピロリ菌の除菌が必要なのですか?
ピロリ菌の除菌は、単に胃の調子を良くするだけでなく、深刻な病気を予防するために非常に重要です。
- 胃がんの予防 WHO(世界保健機関)は、ピロリ菌を「確実な発がん因子」として認定しています。ピロリ菌感染者のほぼ全員が慢性胃炎になり、その中から年間約0.5%の方が胃がんを発症すると言われています。除菌治療によって、この胃がんの発生リスクを3分の1から3分の2程度にまで減らすことができると報告されています。
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発予防 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の最大の原因はピロリ菌です。除菌をしないと、潰瘍が治っても高い確率で再発を繰り返します。除菌に成功すれば、再発のリスクを劇的に低くすることができます。
- その他の病気の予防・治療 胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、慢性じんましんなど、一部の胃以外の病気もピロリ菌感染との関連が指摘されており、除菌が治療の一環となることがあります。
ピロリ菌の検査
ピロリ菌の感染を調べる検査には、胃カメラを使う方法と使わない方法があります。
内視鏡(胃カメラ)を使う検査
保険診療で除菌治療を行うためには、まず胃カメラ検査で「ピロリ菌による慢性胃炎」の存在を確認することが必要です。
- 迅速ウレアーゼ試験:胃の粘膜を少量採取し、ピロリ菌が持つ酵素の働きを調べる検査。その場で結果がわかります。
- 組織鏡検法:採取した組織を染色して、顕微鏡でピロリ菌の存在を直接確認します。
- 培養法:採取した組織を用いてピロリ菌を培養します。
内視鏡(胃カメラ)を使わない検査
- 尿素呼気試験:検査薬を飲み、その前後の呼気(吐く息)を調べて診断します。精度が非常に高く、身体への負担もないため、特に除菌が成功したかどうかの判定検査として最適です。
- 抗体測定:血液や尿に含まれるピロリ菌の抗体を調べます。
- 便中抗原測定:便の中にピロリ菌の抗原(菌の一部)があるかを調べます。
ピロリ菌の除菌治療の流れ
除菌治療は、以下のステップで進めていきます。
- 胃カメラ検査による診断 まず胃カメラ検査を行い、胃の中に慢性胃炎があることを確認し、同時にピロリ菌の感染検査を行います。胃がんなどの他の病気がないかも、この時にしっかりと確認します。
- 一次除菌 胃酸の分泌を抑えるお薬と、2種類の抗生物質の、合計3種類のお薬を朝夕2回、7日間服用していただきます。
- 除菌の判定 お薬を飲み終えてから約2ヶ月後に、尿素呼気試験などで除菌が成功したかどうかを判定します。一次除菌の成功率は、現在80%~90%程度です。
- 二次除菌(一次除菌が不成功だった場合) 一次除菌で除菌できなかった場合は、抗生物質の種類を変えて、再度7日間お薬を服用していただきます(二次除菌)。二次除菌まで行うと、90%以上の方が除菌に成功します。
除菌後の注意点:除菌しても胃がんのリスクはゼロにはなりません
ピロリ菌の除菌に成功すれば、新たな胃炎の進行は止まり、胃がんのリスクは大幅に低下します。しかし、リスクがゼロになるわけではありません。
除菌するまでの間に、長年の炎症によって傷つき、荒れてしまった胃の粘膜(萎縮性胃炎)は、除菌後も残ります。その荒れた畑からは、残念ながら胃がんが発生する可能性があります。
したがって、ピロリ菌の除菌が成功した方も、それで終わりではなく、定期的に(年に1回程度)胃カメラ検査を受け、胃の状態をチェックし続けることが非常に重要です。
院長より
私が医師として働き始めた頃と今とで、胃の病気の常識は劇的に変わりました。その最大の変革が、ピロリ菌の発見と除菌治療の確立です。かつては原因不明とされた胃炎や、再発を繰り返す胃潰瘍が、今ではたった1週間のお薬で根本から治療できるようになりました。そして何より、多くの日本人を苦しめてきた「胃がん」が、予防できる病気になったのです。
あなたの胃、そしてあなたの大切なご家族の胃に、ピロリ菌は棲みついていないでしょうか? 一度もピロリ菌の検査を受けたことがない方、過去に陽性を指摘されたけれどそのままになっている方、胃の不調が続いている方は、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。
私たちの役割は、単に除菌のお薬を処方することだけではありません。消化器内視鏡専門医として、精度の高い、そして苦痛の少ない胃カメラ検査を行い、あなたの胃の現在の状態を正確に把握することから始めます。そして、除菌治療を成功へと導き、さらには除菌後の未来まで、定期的な検査を通じてあなたの胃の健康を生涯にわたって見守り続けること。それが、高槻市の「胃のかかりつけ医」としての私たちの使命です。
胃がんの不安から解放された未来のために、まずは一歩、踏み出してみませんか。